本が読めないはずだ
わたしは本の中の人だったのだ
記憶力はあまり良くないが
本の中の人が本を読む設定ならば
本を読むであろうが
本の中の人は
それどころではないほどに
船の中にいるように
波の上に揺らされて
おおうみのときも
凪のときもあっただろうが
せいぜい読むのは
ちいさな詩のみ
ちいさな詩であっても
それは大きな海であることもあり
ちいさな詩を時折よんでは
大波に波うつ船べりに
手を携えていくくらいしか
すごす術はなし
気づけば
本の外と本の中のあわいというか
寄る辺にいて
どちらでもあり
どちらにでもなる
もしかすると融合しているような
統合しているような感覚
彼方の感覚はかなしいかな忘れてしまったが
それでもほわりと身におぼえがある
いくこともできるだろうが
もう無意識にいることはあり得ない
不可能なのだ
本の中にいると感じつつ
本の中にいる
本が読めない
そう思っていた
一行よめば
彼方の世界にいってしまう
それはいうなれば自然のことで
いまは、「わたし」について
かかれている書物をさがしている
ああこれは
ああこの感覚は
私のことだ
と接すれば
それは「わたし」のことなのだ
2023.12.6