芙蓉
夏の朝
水のはったガラスには
芙蓉の花が満面に生けられている
幼きわたしが
朝起きると洗面所の金たらいに
水が張ってあるのをしる
その一杯のみのたらいの水を
みなが掬って顔をあらう
気づくといつのまにか
打ち水が玄関先にまかれており
涼をとるようにと摘まれた
芙蓉の花々が
水の張られたガラスに浮いている
一度摘まれ、いのちの道をたたれるとみえた草花の、また水に放たれるを
生け花、というように
日々おとずれる朝
はられた水を掬って
顔を拭うとき
花を生けるたびに
顔を拭うたびに
いや拭えないときでさえ
そのガラスに浮かぶ
幼き夏の日の芙蓉を
おもうに
きっと
また
あらたに
わたしも花も
生かされるのだ