朝起きたら
ある人の存在を忘れていた
それは残念というよりも
どこかでほっとした感覚があって
けれども忘れていたとわかった途端
また輪郭がみるみるうちに蘇っていく
いつのまにか風景にとけこんでいる人から
私のくらしの登場人物として
デッサンする時に線を描くように
何度も輪郭をなぞっては
消しゴムをかける
登場人物
願っているのか
願ってないのか
消しゴムで存在を薄めようとしては
また輪郭をなぞる
忘却する装置と忘れまいとする装置
いつのまにか風景にとけこんでいる人から
消えにくい線へとなっている
ああかぐや姫
忘れたくない
忘れたくないと
いいつつ
月にかえると途端すべての
地上での思い出が、情念が消えて
悩みも苦しみもなくなる
けれどそれは同時に
愛しく思う気持ちを失うことなのだ
絶望は要らないと口で言いつつも
そこからうまれる線の豊かなことよ
かなしみくるしみ
そこにある愛おしさ
その線をひとは芸術ともいう
